4.5坪で醸す文化と多様性
2020/11/02
東京都世田谷区、三軒茶屋駅から徒歩5分の距離に醸造所があるのをご存知でしょうか。
その名も「三軒茶屋醸造所」
醸造スペースはわずか4.5坪で、飲食店(WhimSAKE&TAPAS)を併設しています。
(商店街を抜けた先に現れる三軒茶屋醸造所)
(飲食店店内からはガラス張りで醸造所を臨めます)
ここで造るのは、日本酒を濾す前のどろどろの状態のお酒である“どぶろく”や、米とともにボタニカル副原料を投入して発酵させる“ボタニカルSAKE”の2つ。
基本的には山形県産米つや姫と三軒茶屋の井戸水で仕込みをしています。
ボタニカルSAKEでは、米+α(ボタニカル副原料)のレシピは副原料の数だけある、つまり無限大の可能性を秘めています。
そこで日本酒の世界を広げるべく「様々な発酵/素材に挑戦し、新しいレシピを常に開発して醸造する」というのが三軒茶屋醸造所の大事なコンセプトです。
ちなみに、どぶろくについては前回まとめた記事がございますのでそちらもご参照ください!
▷【三軒茶屋醸造所コラム】どぶろくの日(10月26日)に知りたい!作り方から起源まで
しかし、ただ新しいものを造るだけでは「日本酒の世界を広げる」ということにはつながりません。そのために三軒茶屋醸造所では4つ大事にしていることがございます。
1.伝統を知る
2.多様性を広げる
3.食べ合わせ提案を積極的に行う
4.サイエンス/文化に対する敬意を払う
(三軒茶屋醸造所で生み出されるお酒)
1.伝統を知る
まず、ものづくりにおいては「自らの立ち位置を知る」ことが重要であると考えます。
中でも日本酒は國酒としての伝統を持ち、古来は神事から始まり、様々な人の手を経て多様な製法が生まれてきました。我々は醸造というものづくりを行う上で、この伝統を第一に考えます。
これは伝統を守りそのまま踏襲するということではありません。そもそも、伝統というのは移りゆくものです。60年前の常識と600年前の常識は違います。
大事なのは過去のものづくりの変化/流れ/革新を知り、そして自らの立ち位置を正しく認識し、それを新たなものづくりの一部としてゆくこと。そしてそれこそが革新につながってゆくと考えます。
水酛や生酛といった伝統的な製法に回帰しつつも、現在のトレンドにまで押し上がってきた白麹を用いた製法を取り入れたり、新しく考案した製法を実践するなど、ものづくりの「伝統」という側面を大事にしながら正面から向き合い、積極的に新しいものを生み出す“革新”の姿勢を大事にします。
(現存する最古の製法とも云われる”水酛”で仕込んだどぶろく。爽やかな酸味が特徴です)
2.多様性を広げる
日本酒は製法が多様であることに加え、仕込配合や素材/酵母の選択などで幅広い味わいを出すことができます。
我々は現在の激しく移りゆく時代性の中で「多様性」に焦点をあて、様々な食事/趣向にも合わせられるような商品を目指します。
商品ごとに1つ1つストーリーを設け、それぞれの個性あるお酒で多様性を表現。幅広いラインナップを持ちながら深く味わえるような酒を目指して商品を設計して参ります。
(2020年秋だけでもこのラインナップ。多様な味わいを生み出します)
3.食べ合わせ提案を積極的に行う
酒は食とあわせることで、さらに魅力が増すものと考えます。
お互いがお互いを引き立てるようなペアリングを、香気成分や酸味の成分等から推測したり、併設飲食店のシェフと相談しながら考えます。
また、醸造が関わる発酵という領域では酒造だけでなく、醤油/味噌などの発酵調味料や漬物などの発酵食品の存在も欠かせません。発酵という分野を横断的に学ぶためにも、食に対する関心は私達にはなくてはならないものなのです。
食も時代を経るごとに様々な形に変わってきました。多様化した現代で、食卓を彩るお酒を目指して各地の食文化まで参考にしながら、商品設計/食べ合わせ提案に活かします。
(デザートペアリングも行っています)
4.サイエンス/文化に対する敬意を払う
酒造りとは酵母や麹などの微生物が関わるものづくりです。
目に見えない微生物の働きは、太古の時代では神性を付与されたのも頷けます。一方で、目に見えないからこそ起こる腐造は、発酵を利用するものづくりには表裏一体のものとして存在していました。そういった現象は人々の経験的な工夫により伝統として受け継がれ、脈々と人々の生活とともに受け継がれました。
そのような経験則に対し論理的な理解を与えたのは、他でもない近代科学です。我々は近現代科学によって得られる知見を最大限に活用し、革新的で自由なものづくりに活かし、良質なお酒の醸造を第一に掲げます。
また、酒はそもそも文化的な飲料でした。
神事に密接に関わり、日本酒に限らずどの地域でも宗教性を多分に帯びたものです。我々は文化を知り、その性質をものづくりへと反映させます。文化とは常に社会と人々の関係/歴史/地理的要因を内包します。
米だけでなく、他の素材も副原料と使用する際はそういった文化的な側面も重視し、一貫したストーリーを紡ぎ出してゆきます。
そうして醸されたお酒には、不思議と生まれる調和が宿ると考えますし、そうすることで日本酒の文化が広がるきっかけを生みだす可能性が生まれると信じております。
(醸造所の本棚の様子。蔵人たちもいつでも読めるようになっています)
WAKAZE三軒茶屋醸造所のFONIA TEA〜亀の尾×青茶~ recipe no.043
青茶(烏龍茶と同義)を使用することで花やかな香りを活かしながら、自然栽培米の亀の尾を90%精米で使用しています。米のポテンシャルを最大限活かすため“水酛”を選択して、それを独自に改良することで酸が上がりすぎない造りとしました。
また青茶を熱湯で抽出して仕込水に使用することで90%という食用に近い精米歩合の米をしっかりと溶かし、その特性を引き出しました。また貝料理との相性がよく、今までのどのお酒にも当てはまらない新しい味わいのお酒です。
Text by TODA
WAKAZE三軒茶屋醸造所2代目杜氏。
埼玉県戸田市出身。名字と出身地が同じという稀有な人材。肩書の長さには自信がある。会うたびに髪が長くなっているとの噂があり、社内でも髪型の方向性がわからないという声が度々上がる。酒造履歴としては、三軒茶屋醸造所立ち上げ直後から蔵人として杜氏 今井翔也に師事。同年冬には千葉・木戸泉酒造と群馬・土田酒造にて修行し、翌年9月の今井渡仏にあわせて三軒茶屋醸造所での酒造業務を任される。2020年4月より、三軒茶屋醸造所杜氏として指揮をとる。