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ヨーロッパでの“出会い”と“言葉”で生まれ変わるSAKE

2020/11/28

最終更新日:2020/11/30

今回、フランスで造るSAKEをリブランディングするにあたって、よく聞かれるのが「なぜ今までのデザインや味わいから大きく変えようと思ったのか?」ということ。
2期目に進むにあたり、これまでの出会いとともに振り返ろうと思う。

1.“何かを変えたい” ~Soizic~
2.“感情に訴えるデザイン” ~Peter~
3.“Mastered in Japan, Made in France” ~Emmanuel~
4.“キレのある果実味” ~Abdel~
5.“鎖の強さは一番弱いつなぎ目で決まる” ~Kjetil~
6.“次なる「世界」のスタンダードを創るSAKE” ~THE CLASSIC~ 

そもそも、フランスのパリ郊外に酒蔵を設立すること自体、かなり大変だった。

自分(WAKAZE代表取締役 稲川)のnoteでも書いた通り、物件探しから始まって資金調達、そして近隣住民の反対にあったり工事が大幅に遅延したり。
半年間で蔵を建てて酒を造るだけでいっぱいいっぱいでブランドというモノについて深く考える余裕が無かったというのが正直なところだ。

そして発売後、いきなりコロナがきてフランスは一度目のロックダウン。
日本以上に今も大きな経済的なダメージを負っているヨーロッパにおいては、主要取引先だったレストランがロックダウンにより売上ゼロになるなど、「酒をやっと造れた!」と思った瞬間にまた危機が押し寄せてきた。

ただ、ありがたいことにヨーロッパでのオンラインの売上が好調に伸びたのと、日本のWAKAZEファンから大きな反響をいただけたことで、なんとか復調することができた。

また、凍てつくフランスの1年目の冬を乗り越えた仲間と造ったSAKEが初回醸造酒ながら「KURA MASTER」というパリのSAKE品評会でいきなり最高位のプラチナ賞を受賞することができ、大きな自信につながった。

 

1.“何かを変えたい” ~Soizic~

2期目の酒造りを迎えるにあたって、改めてブランドというものに向き合ってみようと考えていた。
そんな中、春にパリで出会いWAKAZEでインターンをしてくれた女性のフランス人メンバー
Soizic(ソワジック)から「フランス人の若い世代の求めるブランドはちょっと今のとは違うかも」という提案を受けた。
もちろん最初は今まで積み上げたものがあるから少し抵抗はあった。しかし、徐々に彼女の話を聞く中で「何かを変えたい」という気持ちが膨らんできた。

soizic

 

2.“感情に訴えるデザイン” ~Peter~

そこで、Soizicに探してもらった複数のクリエイティブエージェンシーの中でも、今リブランディングで協業しているロンドンのOur Friends社の創業者Peter(ピーター)との出会いは格別だった。

PUMAやBoston Beerはじめ、名だたるブランドを手掛けるイギリスの超一流ファームのトップでありながら、物腰は穏やか。どのファームにも尋ねた質問は「WAKAZEに足りないものは何か?」だったが、少し押し黙った彼から返ってきた答えは「直感的に“欲しい”と思えるような感情に訴えるデザイン」という一言。

他のファームからは曖昧な返答が多かったので、明確かつちょうど課題に感じてたことを一瞬で見極めたその感覚に、感動したのを覚えている。

peter hale

その後、彼はロンドンから奥さんを連れてわざわざ夏の暑い季節に蔵に来てくれた。
エアコンの効かない部屋で汗だくになりながら、半日かけてWAKAZEの創業時のことや、社名の由来、日本でのストーリーなどを話した。自分やWAKAZEの話をした後は、Peterの話を聞く中で、独特のリズムと世界観を持っている彼の話に引き込まれた。

「こんなものの見方をする人がいるんだ」と、日本では出会ったことの無いタイプの、クリエイターらしいアイディアや世界の切り取り方に、何度も驚かされる。
Peterの手掛けたパリの超人気アジアンフュージョンレストラン「MISS-KO」にも行って食事をしてみたが、独自の世界観があって、日本人には刺激が強いかもしれないが(笑)、人気の理由が垣間見えた。

MISS-KO

3.“Mastered in Japan, Made in France” ~Emmanuel~

クリエイティブエージェンシーの起用については、今、WAKAZEフランスのSpotifyの音楽プレイリスト作成を手伝ってくれているEmmanuel(エマニュエル)に背中を推してもらったことも大きい。彼はDJとして、またプロデューサーとしてパリで数多くの音楽イベントをミレニアル世代を中心として手掛けていている。

知り合い経由でWAKAZEのお酒を飲んでくれて、ブランドに対して色々と意見をくれた。
彼に
「フランスで造っていること、しかも日本酒のプロである日本人が造っていることは尚更強調しないと!フランス人はそういう文化性にも惹かれるんだよ」と言われたことは、Mastered in Japan, Made in FranceというフランスでのWAKAZEの新しいキャッチコピーを推し出す上でもとても参考になった。

Emmanuel

そんなロンドンやパリのHIPカルチャーなども取り入れて生まれたのが、新しいラベルデザイン。フランスの青日本の赤を掛け合わせたロゴと、ちょっと独特でイノベーティブな雰囲気を放つキャラクターたちが特徴だ。

THE CLASSIC
THE CLASSIC

 

4.“キレのある果実味” ~Abdel~

パリのロックダウンが明けた夏にまず向かったのが、「La Fine Mousse」というフランスで最も有名で人気のクラフトビアバーだ。パリの若くて流行に敏感なミレニアル世代はこのお店でクラフトビアを楽しむ。

オーナーや店長のAbel(アブデル)と仲良くなり、ホップを一緒に選んで造ったコラボSAKEの販売イベントを開いたりしている。
お店では、WAKAZEのSAKEを楽しんでほしいミレニアル世代のお客さんたちに、実際にSAKEを飲んだ感想を貰うことで、多くのフィードバックが得られた。

La Fine Mousse

「少し穀物感が強いから、もう少しワインのように果実味が欲しいかな。」
「甘味が強いから、もう少しキレのある味わいになったほうが飲み続けられそう。」

そんな、こだわりの強いパリっ子からの多くの意見を受けて、南仏カマルグの精米場に掛け合い、今まで94-95%だった精米歩合を92%まで削ってもらうことができた。
フランスの米らしい個性をしっかり残しつつも、下記の写真(左が昨期、右が今期)を見てわかる通り、クリアで透明感がありつつヨーロッパのワイン市場に受け入れられるような甘酸っぱいお酒に仕上がったと思う。

THE CLASSIC

 


5.“鎖の強さは一番弱いつなぎ目で決まる” ~Kjetil~

この夏は、今はギリシャでクラフトビールを造るKjetil(シェティル)に会いに行った。

5年前、彼はノルウェーのビール工場の片隅で欧州初のSAKEを「裸島」というブランドで小規模に醸造していて、今井と2人で会いに行ったことがあった。
彼はその後「顧客のために最高のビールを作りたかったのに、いつの間にか皆がお金や規模ばかりを追求して品質をないがしろにした」と、ノルウェーで創業したビール会社を去ったのだった。

今回は彼から彼の新しいビール醸造所で「A chain is only as strong as its weakest link」という言葉を授かった。“鎖の強さは一番弱いつなぎ目で決まる”、すなわち、一つでも弱いところがあると全体が弱くなってしまう、という意味だ。
シェティルはビールづくりに加え、顧客が飲むその瞬間までを大切に、瓶詰めから冷蔵保管設備まで、様々なことに投資をしていた。 

そんな話を聞いて、フランスに戻ってすぐに設備調達や出荷プロセスの改革を行った。
酒造りのみならず「出荷してお客さまに届くその瞬間まで最高品質を保てるように」とチームで準備を進めてきた。出来上がった2期目のSAKEをギリシャに居るシェティルに送って、テイスティングのコメントを貰うのがとても楽しみだ。

Kjetil

 

6.“次なる「世界」のスタンダードを創るSAKE” ~THE CLASSIC~

2期目の酒造りが始まり、デザインも一新したWAKAZEとしての新たな一歩となるブランド「THE CLASSIC(ザ・クラシック)」ができあがった。

フランスでは一足早くお披露目したが、オンラインのみで初月にして3000本近いオーダーが殺到していて、フランスでのSAKEへの熱狂を感じている。
その名前に込めた意味は
“次なる「世界」のスタンダードを創るSAKE”であり、確実に近い将来ヨーロッパでそういった存在になって行くという手ごたえを感じている。

そしてフランスで酒蔵を設立してSAKEを造るに至るまで、WAKAZEの原点として支えてくれた日本の皆様に、いよいよこの「THE CLASSIC」をお届けできることを心から楽しみにしている。
日本向けには、Quality Conscious(クオリティのあくなき追及)というWAKAZEの価値観の1つを体現すべく、リブランディングに合わせて船便ではなく空輸とすることで輸送リードタイムを短くして、更なる品質維持を実現した。

ヨーロッパでの人との“出会い”とその“言葉”で生まれ変わったWAKAZEのフランス産のSAKEを、パリの情景に想いを馳せながら、色々なシーンで楽しんでもらえたらと思う。

《フランスで現地原料で造る清酒》KURA GRAND PARIS SAKE「THE CLASSIC(ザ クラシック)」

THE CLASSIC

 

Text by Takuma
稲川 琢磨 / 代表取締役CEO。
1988年生まれ。慶應義塾大学理工学研究科で修士課程修了。在学中にはフランス政府の奨学金給費生として2年間パリのEcole Central Parisに留学。前職はボストンコンサルティング・グループにて経営戦略コンサルタント。2016年に独立・起業しWAKAZEを設立。2019年からはフランスに移住しパリ醸造所の陣頭指揮を取る。

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