香気成分から読み解く、ウイスキーと紅茶をまとうSAKE
2020/12/11
こんにちわ、WAKAZE三軒茶屋醸造所でアルバイトをしているMisawaです。
常日頃から香気成分を考えている私なので、今回は香気成分を軸に、ひとつのお酒を紹介したいと思います。
このマガジンで読み解くSAKE▷FONIA tea Whisky Black Tea
1.ウイスキーがまとうフレーバー
1-1.オーク樽の個性
1-2.ウイスキーのフレーバー
2.紅茶が生み出すフレーバー
2-1.製茶工程と香気成分
2-2. 紅茶のフルーティな香りの生まれ方
3.FONIA tea ~ Whisky Black Tea ~
1.ウイスキーがまとうフレーバー
1-1.オーク樽の個性
まず、ウイスキーに使われる樽についてお話ししたいと思います。
ウイスキーに使われる樽は、基本的にはオーク材(楢や樫)でつくられ、オーク樽と呼ばれます。このオーク樽のどの種類を使うか?により、ウイスキーの樽フレーバーは大きく変わります。
代表的なオーク樽としては、アメリカンオーク(アメリカンホワイトオーク)、ヨーロピアンオーク、ミズナラ(ジャパニーズ・オーク)があります。
それぞれには、香りの個性があります。
「アメリカンオーク」は、ココナッツやバニラなどの甘く強い香り、フルーツ系のエステル系の香り。
「ヨーロピアンオーク」はダークラムや糖蜜、ドライフルーツやシナモンを思わせる香り。
「ミズナラ」は樹脂の香りや白檀、バニラのような香りが特徴的とされます。
ウイスキーはこれらのオーク樽の内側を強い熱で炭化させ、蒸留したウイスキーの原液を入れて熟成させることによって、淡い黄金色とバニラやナッツのような特徴的なフレーバーを持つようになるのです。
1-2.ウイスキーのフレーバー
さて、ウイスキー樽についてお話ししてきましたが、ここからがウイスキーのフレーバーに関するお話となります。
ウイスキー樽の香気成分は細分化すれば種類も多くあります。
今回はウイスキー・ラクトン(オークラクトン)とバニリンについてお話したいと思います。
「ウイスキー・ラクトン」は、樽材にもともと含まれています。樽の内面を焦がす作業により、さらに増えることがわかっています。
そしてウイスキーを樽にいれて熟成させる過程で、ココナッツ様の香りのするウイスキー・ラクトンが、樽材からお酒に溶け出してくるのです。
また、「バニリン」もウイスキー・ラクトンと同様にオーク材を焼くことで生成されますが、少し生成経路が複雑です。
オーク材を焼くことで木材の内部に含まれるリグニンと呼ばれる物質がアルデヒドに変化し、この樽でウイスキーを熟成させることで、アルデヒドが酸化されバニリンなどの芳香族化合物へと変化します。
こうして、ウイスキーはバニラ様のフレーバーをまとうのです。
2.紅茶が生み出すフレーバー
2-1.製茶工程と香気成分
紅茶の話に入る前に、まず「茶」についてのお話をさせていただきたいと思います。
現在までに茶・生葉・製茶において、630 種類以上の香気成分が報告されています。
それほどまで茶の「香り」のバラエティーは富んでおり、多くくは“Flowery”、“Fruity”、“Sweet”として捉えられます。
華やかな香りは、リナロール、ゲラニオールなどに由来し、緑の香りは(Z)-2-ヘキサノール、(Z)-2-ヘキサニルアセテートなどがあります。
つまり、これらの多種多様な香気成分の種類や量のバランスにより茶の香りが特徴づけられているのです。
茶には、緑茶、烏龍茶、紅茶のように「香り」のバラエティーが異なる茶がありますが、どれも同じ茶葉から製造されます。
つまり、それぞれの茶の「香り」の違いは、製造工程の違いによるものであり、いずれも香気成分の “源” は同じであることを意味しています。
その源とは、香気配糖体(GBVs)というものです。
これは揮発性化合物(香気成分など)が、主に酸素原子を介して糖と結合しています。そうすることで、安定的に揮発性化合物を貯蔵させるものです。
この香気配糖体(GBVs)には、香気成分が遊離するという仕組みがあります。茶の糖加水分解酵素により、糖と非糖部分(香気成分)に加水分解されるのです。
そうすることで、茶は香りを放つのです。
2-2. 紅茶のフルーティな香りの生まれ方
この糖加水分解酵素の働きを、製茶工程において巧みに調節することで、多様な香気成分を有するお茶が生み出されます。
ここで紅茶の話に戻りますが、紅茶の製造工程で糖加水分解が起こるのは、萎凋や揉捻、発酵のタイミングです。
萎凋(いちょう)は、刈り取った茶葉の35~43%ほどの水分を取り除き、香り成分が出やすくさせる工程です。
この工程でフルーティな香り(リナロールなど)が葉の中に残り、さらに水分が飛ぶことによって香りが高まります。
揉捻(じゅうねん)は、茶葉に圧力をかけて揉むことです。
序盤は茶葉の組織を、終盤は細胞など全体を破壊して、カテキン類の酸化反応を進みやすくします。
発酵の工程では、前の工程で進んだ茶葉内の化学反応を急激に進行させます。
カテキン類は酸化され、分子は異性化、酸化重合反応などが進むことで、紅茶は特有な赤橙色物質に変化します。
また、先ほどお話しした茶の糖加水分解酵素によってカテキン特有の苦渋味を減少させ、香気成分も遊離させます。
この様な工程を踏むことで、紅茶に特有の香りを持たせることができるのです。
3.FONIA tea ~ Whisky Black Tea ~
これまでウイスキー樽のフレーバーと紅茶のフレーバーについてお話ししてきましたが、三軒茶屋醸造所ではこれら二つを兼ね備えたお酒を今回醸造したことがあります。
▼FONIA tea ~ Whisky Black Tea ~
TeaRoom様が開発した「ウイスキー紅茶」。ウイスキー樽に紅茶の茶葉を入れて寝かせることで芳醇な香りを纏わせています。
この紅茶をSAKEに使用したことで、樽熟成をさせたかのような香りをSAKEに持たせることができました。
口に含むと紅茶のリナロールなどの甘い香りとともに、ウィスキー樽のバニラやチョコレート感を思わせる香りが口全体に広がります。
SAKEの温度を上げることで香気成分を揮発させると、より多くの香りを楽しめるため、常温もオススメです。
このSAKEと料理のペアリングを考えると、ウイスキー樽のフレーバーであるウイスキー・ラクトンには、ナッツとドライフルーツを使ったフレーバーバターがよく合うと予想されます。
また、バニリンには部分構造にバニリン由来のバニリル基を持つカプサイシンが合うと予想されるため、レッドカレーが合うと予想されると思います。紅茶のフレーバーのリナロールと(Z)-2-ヘキサノールには、リナロールを多く含んでいるバジルと(Z)-2-ヘキサノールを含むトマトでカプレーゼが合うと予想されます。
Text by Misawa
WAKAZE三軒茶屋醸造所および併設飲食店Whimのアルバイト。
中学生の頃から発酵食品について興味があり、東京農業大学第一高等学校へ進学。その後、東京農業大学の応用生物科学部・醸造科学科へ進学。清酒やビール、味噌、醤油など幅広く食品について学んでいる。最近は食品の香気成分について学び始めたため、食事中は香気成分の名前が頭の中を飛び交っている。